「パラサイト 半地下の家族」の主演としても有名な韓国の名優ソン・ガンホが主演を務める『タクシー運転手 約束は海を越えて』。
韓国映画で15番目に1200万人を超える観客動員を記録した本作。実話に基づいて製作された本作は、韓国の歴史を生々しく表現し、韓国内外問わず多くの人々を魅了した。
筆者にとって韓国映画で最も感銘を受けた作品の一つで、現在NetflixでもAmazonプライムでも鑑賞可能なので是非とも見て頂きたい。
今回はそんな本作と、主演のソン・ガンホについても解剖していく。
Contents
あらすじ
時代は1980年5月。貧しく生活に困っていたソウルのタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、10万ウォンで光洲へ行きたいというドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)の話を聞きつけ、他のタクシー運転手を出し抜きピーターを乗せて光州へ向かう。厳しい検問を乗り越え光州へ辿り着いた二人だが、二人の目が見た光洲の光景は軍による暴虐とそれに抗う市民の悲惨な現状であった。光洲の現状を世界へ発信することを決心したピーターは、危険を犯しながらも悲惨な現状をカメラへ記録していく。自身が住んでいた平凡なソウルと別世界の光景を目の当たりにしたマンソプは一刻も早くソウルへ戻ろうとしていたが、光洲で出会った市民たちが軍によって命を奪われていく中、次第にピーターと同じ志しを抱き始める…
実話!実在した人物をモチーフに光州事件を洗い出す
韓国の歴史上、最も残虐な市民運動となった光州事件。ドイツ人記者のユルゲン・ヒンツペーターの発信によって全世界へ明るみになったこの事件の様子が細やかに表現されている。
凄惨な画をひたすら描写するというよりは、権力の暴走とそれに立ち向かう市民、当時の人々を中心に描かれており、我々に生々しい当時のリアルさを訴えかけてくる。
最初は退屈!?平凡な日常を描く最初の20分
正直に申し上げると、本作の冒頭部分では少し退屈した。冒頭で本作の鑑賞を止めてしまった人もいるのではないだろうか。しかしこれが非常に重要で、冒頭のシーンは退屈で平凡な日常を表現しなくてはいけなかったのだ。
ソウルのタクシードライバーであるマンソプがソウルから光州へ進むにつれて、光州での光景が異常だと感じ始める。それはまるで別世界の地へ足を踏み入れた感覚であったに違いない。当時の韓国では、報道規制、言論統制下の元にあり、光州での悲惨な状況など光州市民以外は知る由もなかった。マンソプにとってピーターを客として乗せたことは日常の一部であり、その後の展開など予想することはできなかったのだ。
つまり、光州事件のような凄惨な出来事は常に私たちの退屈で平凡な日常に潜んでいるということなのだ。
ソン・ガンホ、韓国現代史最大の悲劇を描く作品に込めた想い | ORICON NEWS https://t.co/uyXUzWMGNa
— 映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』 (@taxidriver0421) April 19, 2018
ー「マンソプが光州に向かったのは、職業倫理の側面よりは人としての道理、つまりもっとも常識的な道理に従ったまでのことだと思います。歴史的な事件を目撃した大韓民国の国民の1人であるという視点を常に念頭に置きながら演じていました。」
主演のソン・ガンホがインタビューで語った一言である。
日常がいつ崩壊するのかわからない。光州事件を経験した人々も我々同様、ただ日常を過ごしていただけなのだ。
韓国の名優ソン・ガンホ
『弁護人』、『グエムル-漢江の怪物-』、本作『タクシー運転手』、『パラサイト 半地下の家族』どれもソン・ガンホ主演の映画で、韓国国内の興行収入ランキング15位以内の作品である。
興行収入が作品の良し悪しと評することはできないが、1つの指標として考慮すれば、彼がいかに才能溢れる俳優かお分かり頂けるだろう。
そしてこのソン・ガンホ、ドラマへの出演経験が全くないのだ。
「撮影数ではあまり多い方ではなく、年に1作品程。1つの作品だけでも大変なのにテレビ作品なんて考えれない。」
とインタビューで語っており、”映画俳優”としての心構えや意思がしっかりとしている。
テレビドラマを否定する訳ではないが、作品へ対する彼の想いが人々を魅了してやまない由縁なのだろう。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』を鑑賞した人たちの評価
マンソプの気持ちの変化を自然と表現してた
軍人も同じ国民の1人ということをそういう描写がちゃんとあってよかった
実話を基づいてて、エンタメ性を忘れない最高の二人の話!何もいう事のないのオールタイムベスト。
感動した点は
-光州到着の夜の家に招かれた晩飯のシーン
-ソウルへ戻る途中、マンソプが娘に電話して、引き返すシーン
-マンソプがピーターへ「客からお金をもらったら、客を残して帰ることはしない」と言うシーン
-他のタクシー運転手がマンソプを死守する最後のカーチェイスのシーン
実在していたドイツ人記者が物語の緊張感と説得力を確固たるものにしている。
筆者のひとこと
前述したが、光州事件を経験した人々も我々同様、ただ日常を過ごしていただけであった。という点がこの作品の生々しさとリアルさの説得力を確固たるものにしたに違いない。
今世間では新型コロナウイルスによって多くの人が生活の激変を強いられている。以前の”日常”がどれだけ尊いかを実感しているのではないだろうか。
どんな状況下でも強く生きる人々の力強さと、日常の尊さを本作から学ぶことができると私は思う。