『ハリーポッター』の知られざる裏舞台|スネイプだけが知っていた秘密、生き延びたハグリッド【誕生30周年】

J・K・ローリングが『ハリーポッター』の執筆を始めてからは30年が過ぎ、2001年に『ハリーポッターと賢者の石』の映画が公開されてからまもなく20年が経とうとしている。
全8作品が作られた10年間、ハリーやロン、ハーマイオニーと一緒に育ったという人は少なくないだろう、筆者もその一人だ。

本記事ではハリーポッターシリーズ全8作品から知られざる本編の裏側をかいつまんでご紹介する。

ハリーポッター役のキャスティングは不満だった

最終話の公開後にJ・K・ローリングが当時を振り返り、「ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)とエマ・ワトソン(ハーマイオニー・グレンジャー役)はすぐに決まったがハリー・ポッター役だけは難航していた」と語っている。
原作では主人公三人組はサエないキャラクターで、ローリング氏の希望としては美しすぎない俳優のキャスティングを望んでいた。

ハリーポッター役がダニエル・ラドクリフに決まった時、J・K・ローリングは「この少年は美しすぎる」と思ったそうだが、最終的には「映画だから仕方ないか」と納得したそう。
ハーマイオニー(エマ・ワトソン)のキャスティングについても最初は納得していなかったが、電話で初めてエマ・ワトソンと話した時、彼女が興奮のあまりノンストップに話し続ける様子をみてこのキャスティングで間違いないと安心したそうだ。頭脳を武器にするサエない女の子が、4作目で美しく変貌することが一つの物語の魅力だということを考えれば、その話も納得できる。

これほどの大作でも映像化は予算との戦い

『ハリーポッターと賢者の石』から予算は134億円あり、以降の続編でも毎作同等の予算が確保された。
そんな大作でも、原作の映像化にはいつも予算との戦いがあった。
まずは巨大なセットだ。どのセットを作るのにも膨大な時間とコストがかかる。多い時には数百人もの大工が同時にセットの製作を行うような時もあったそうだ。
セットが完成すると美術と小道具を揃えなければならない。特に、ウィーズリー家のリビングのような小道具の数が多くなるシーンでは、装飾を集めるだけで数ヶ月を要する。

他にもCGではなく敢えて模型や小道具で撮影されたシーンが多く存在する。
例えば『ハリーポッターと秘密の部屋』では物語の中心とも言えるアラゴグ(巨大なクモ)のシーンで、誰もがCGで決まりだと思っていたところ、敢えて模型で製作することを選んだ
シーンによってはCGでの再現のほうが難易度が高いこともある。
同作に登場する不死鳥についても模型が用いられた。結果として羽一つ一つまでにこだわりを詰め込むことができて、ダンブルドア校長室での不死鳥の登場シーンはより印象的なものとなった。

昨今のハリウッド映画では多くのシーンがCGによって描写されるが、ハリーポッターシリーズにおけるこのセットや小道具への強いこだわりこそがハリーポッターの世界をより魅力的なものに作り上げているのだ。

筆者はクモが大のニガテなのだが、このアラゴグの弔いシーンでは思わず涙ぐんでしまった。

映画のチカラって素晴らしい。(笑)

1990年12月30日に描かれたスプラウト先生のスケッチ

彼女はエクスター大学に進学し、フランス語と古典学の学位を取った。その後ロンドンに移り、しばらくの間友人の家に居候をしていた。
ある夜、彼女は友人が寝静まったあと映画『王になろうとした男』(原題:The Man Who Would Be King)を見ながら夜更かしをしていた。
その時ちょうど『ハリーポッター』に登場する植物学の教授であるスプラウト先生のスケッチを書いていたのだ。

Jkローリングにとってこのスプラウト先生のスケッチには特別な想いがあるそうだ。
なぜならこのスケッチを書いていた1990年12月30日の夜に彼女の母が250マイル離れた場所で亡くなり、翌日に電話でそれを知ることになったからだ。

この母を亡くした喪失感が物語のテーマとなりハリーポッターのストーリーに大きな影響を与えた
JKローリングによればハーブ学の教授であり、ハッフルパフの責任者である「ポモナ・スプラウト先生」は、ホグワーツ魔法魔術学校の4人の家長の中でも「最も母性的で親的存在」であると語っている。

ホグワーツ初のダイブが生まれた舞踏会

『炎のゴブレット』でハーマイオニー(エマ・ワトソン)は大人の美しい女性へと大変貌を遂げる。
その象徴的なシーンが描かれているのが舞踏会の登場シーンだ。
舞踏会で女性はドレス、男性はタキシードを身にまとう。
原作を読んだファンからも特に期待されていたシーンだったため、シンデレラのような衣装を作り上げるためハーマイオニーのドレスは入念に何度も試行錯誤された。

舞踏会のシーンでもう一つ目を見張るのは美しいセットだ。
原作では「氷の宮殿」と表現されており、撮影ではいつもと同じ大広間のセットを完全に模様替えしスワロフスキーのクリスタルのように装飾した。

このシーンではキャスト全員のダンスの練習にも苦戦した。キャストたちには約3週間の練習期間が設けられたが、ダニエル・ラドクリフ(ハリーポッター役)にはスケジュールの関係もあり4日間しか練習の時間が与えられなかった
当時、ダニエル本人は4日間でも上手く踊れるということを見せつけて他のキャストを驚かせたかったようだが、その目論見は失敗に終わったようだ。
演出の面から見ると、ダンスに苦戦するハリーの姿は演技ではなく「ダニエルそのもの」だったため、結果的に役者とキャラクターが完全一致することになり、「上手く踊れないハリー」の演出としては完璧な出来となった。


舞踏会のシーンの後半でホグワーツの呪文学の教授フィリウス・フリットウィック先生が生徒たちの頭上にダイブしている名シーン(?)が生まれたのもこの舞踏会だ。

アラン・リックマン(スネイプ役)はどこまで映画の結末を知っていた?

ハリーとスネイプ先生(アラン・リックマン)の関係はシリーズが進むにつれ大きく変わっていく。
そこで気になるのはスネイプ役の本人は「不気味で怖い先生の役」を演じていた当初、どこまで映画の結末を知っていたのだろうか、という点だ。
真相をJ・K・ローリングがインタビューで語っていた。

アランにだけは当初から「スネイプはリリーに恋をしていた、それでジェームズを嫌い、ハリーにも敵意を向ける」と伝えていた

ダニエル・ラドクリフ(ハリーポッター役)たちによれば、撮影中にアランがなんども思わせぶりな態度をチラつかせるので、出演者たち皆んなが真相を知りたがっていたそうだ。

ダニエルもある時、どうしても先の展開が気になり、J・K・ローリング本人に「僕は死ぬの?」と質問したことがあったらしい。
物語の展開は夫にすら教えないそうだが、ローリング氏は意味深に押し黙りつつダニエルに「死ぬ」と伝えた。

ダニエルは予想通りだったという様子であまり驚かなかったらしい。

作者に殺されそうになったハグリッド

ハリーポッターシリーズではあらゆる登場人物が死を迎えてしまう。
物語のテーマは「死の喪失感」
大切な人の死という展開は、避けては通れない。

実は当初ホグワーツの森の番人ルビウス・ハグリッド(ロビー・コルトレーン)は物語の中で死んでしまう展開になる予定だったそうだ。
J・K・ローリングは「作家は時に冷酷にならなければならない」と語っている。

しかし、どうしても「ハグリッドが死んでしまったハリーを抱えている画」が頭から離れず、そのシーンを残すためだけにハグリッドは生かされることになったのだとか。

執筆初期の頃から「ハリーが死んだと思わせておいてハグリッドの腕から飛び出す」あのシーンは決まっていたそうだ。
最初に家から連れ出すのもハグリッド、そして最後に腕に抱えているのもハグリッド
非常に印象的な場面だ。

10年を経て再現されたグリンゴッツ魔法銀行

『死の秘宝PART2』で、ダイアゴン横丁にある魔法界唯一の銀行「グリンゴッツ魔法銀行」が、『賢者の石』以来10年ぶりに再登場する。

『賢者の石』の撮影当時、美術監督を務めたスチュアート・クレイグ氏は、グリンゴッツ魔法銀行が「安定の象徴」であることを表現するため、撮影地としてロンドンにあるオーストラリア大使館を使用した
大理石の床や柱など大使館の実際の内装に加え、銀行の机や台帳、羽ペンなどを小道具として用意し、格調高い魔法銀行のシーンを作り上げた。

しかし『死の秘宝PART2』の撮影時には、物語の展開上オーストラリア大使館を使用することができなかった。
そのため『賢者の石』で使用した小道具を倉庫から引っ張り出し、ワーナー・ブラザースのリーブスデン・スタジオ内にセットとして再現することとなった。
最終的な映像にはCGによる装飾も施されているので、肉眼で判断することはほぼできないが、
なんと大理石の柱や床はデジタル・プリンタを使用し幅3.6メートル(12フィート)まで拡大コピーされた紙によって再現されているのだ。

まさに美術チームによる魔法だ。(笑)

エピローグの「19年後」は別の俳優になる可能性があった?

最終章でハリーとロンとハーマイオニーの19年後を描いたエピローグのシーンについては、映画公開当初から賛否の声があがった。
このシーンについては製作陣もかなり悩んでいたようだ。

ハリーポッターという映画は、『賢者の石』当時のまだ幼かった頃の3人が、映画のストーリーと同様に少しずつ大人へと成長していくある種のドキュメンタリー的なところが、視聴者にとっても魅力的な要素だ。
それゆえ、実際の時間経過とは異なる『19年後』の3人をメイクアップによって描くというのには、少なからず製作陣にも抵抗があったのだ。

しかしダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの代役を努められる役者が他にいるわけもない。

まとめ

10年という長い年月をかけて描かれてきた『ハリー・ポッター』には、その舞台裏にもまだまだ語り尽くせない歴史がある。
ほんの一瞬映るだけの小道具や衣装に至るまで、制作チームの想いや技術の結晶が詰め込まれている。

裏舞台を知れば知るほど、とさらに『ハリーポッター』という映画の面白さが面白さが増す。

さて、1話から見直すか!